駐車場経営を法人化するメリット・デメリット|個人事業からの会社設立

個人事業で駐車場経営を行い、事業規模が拡大してきた場合、法人化を検討する段階に入ります。

法人化、すなわち会社設立には、税金面のメリットや社会的信用の向上といった利点がある一方で、設立や維持にかかるコスト、事務手続きの複雑化などのデメリットも存在します。

本記事では、駐車場経営を個人事業から法人化する際のメリット・デメリットを解説し、適切なタイミングや具体的な会社設立の手順、注意点について紹介します。

駐車場経営の法人化とは?個人事業主との違いを解説

駐車場経営の法人化とは、個人事業として行ってきた事業を、法律に基づいて設立された企業、法人の事業へと移行させることです。

個人事業主の場合、事業の主体はあくまで個人であり、事業で得た利益も個人の所得となります。

一方、法人化すると事業の主体は会社という独立した人格になり、駐車場や設備などの資産も会社の所有物となります。
これにより、個人の資産と事業の資産が明確に分離され、経営者個人は会社から役員報酬を受け取る形に変わります。

駐車場経営を法人化する5つのメリット

所有する土地を活用した月極駐車場やコインパーキングの経営において、法人化は多くのメリットをもたらします。

特に、所得税や法人税の負担軽減、相続税対策、経費として認められる範囲の拡大などは、事業の収益性を高め、長期的な安定経営に寄与する重要な要素です。

ここでは、駐車場経営を法人化することで得られる具体的な5つのメリットについて、詳しく解説していきます。

所得税や法人税の負担を軽減できる

駐車場経営による不動産所得が増加した場合、法人化は税負担の軽減に繋がります。

個人事業主の所得税は、所得が増えるほど税率が高くなる累進課税制度が採用されており、最大で45%に達します。

一方、法人税は所得額にかかわらず、おおむね一定の税率です。そのため、駐車場経営で得られる不動産所得がある一定の金額を超えると、個人の所得税率が法人税率を上回り、法人として納税した方が手元に残る資金が多くなります。

この税率構造の違いを活用することで、効率的な節税が可能となります。

相続税対策として有効な手段になる

個人で所有する駐車場用地などの不動産は、相続時に高い評価額が算出され、高額な相続税が課される可能性があります。

法人化によって、この不動産を個人所有から法人所有へ移すことで、相続税対策として機能します。相続の対象が不動産そのものではなく、会社の株式に変わるためです。

株式の評価額は、不動産の時価評価額よりも低く抑えられるケースが多く、相続財産を圧縮する効果が期待できます。

また、役員報酬や退職金という形で計画的に親族へ所得を移転させることで、個人の資産の増加を抑制し、将来の相続税負担を軽減する準備を法律に則って進められます。

将来の資産分割がスムーズに行える

複数の相続人がいる場合、駐車場のような不動産を物理的に分割することは非常に困難であり、共有名義にすると将来的な売却や活用の際に意見がまとまらないリスクがあります。

法人化して不動産を会社名義にすると、相続の対象は不動産そのものではなく会社の株式になります。株式であれば、1株単位で分割できるため、相続人間で公平かつ容易に資産を分けることが可能です。

これにより、相続を原因とするトラブルを未然に防ぎ、円満な事業承継を実現しやすくなります。
将来の資産分割を見据えた契約なども、法人格があることで明確に進めることが可能です。

経費として認められる範囲が広がる

法人化すると、個人事業主に比べて経費として計上できる項目の範囲が広がります。

例えば、経営者自身に支払う給与である「役員報酬」や、将来受け取る「役員退職金」も法人の経費として扱えます。また、生命保険料の一部や、社宅制度を導入して家賃の一部を経費にすることも可能です。

駐車場経営に直接かかる管理費や設備の修繕費だけでなく、これらの費用も損金として算入できるため、課税対象となる所得を圧縮する効果があります。

結果として、法人税の負担を軽減し、企業の資金繰りを改善することに繋がります。

赤字を最大10年間繰り越せる

法人化すると、事業年度に生じた赤字、すなわち欠損金を翌年度以降10年間にわたって繰り越せる「欠損金の繰越控除」制度を利用できます。

これは、将来発生した黒字と過去の赤字を相殺し、課税所得を減らすことができる制度です。
個人事業主の青色申告における赤字の繰越期間が3年間であるのに対し、法人はより長期間にわたって損失を繰り越せるため、経営の安定性が高まります。

特に、初期に大規模な設備投資を行い、減価償却によって赤字が出やすい駐車場経営において、この制度は長期的な視点での節税対策として非常に有効です。

駐車場経営を法人化する際に知っておきたい3つのデメリット

駐車場経営の法人化は節税などのメリットがある一方で、無視できないデメリットも存在します。

特に、会社設立や維持にかかるコスト、赤字でも発生する税金の支払い義務、そして経理や社会保険に関する事務負担の増大は、事前に理解しておくべき重要な点です。

これらのデメリットを把握せずに法人化を進めると、かえって経営を圧迫する要因になりかねません。
ここでは、法人化に伴う具体的な3つのデメリットを解説します。

会社設立やその後の維持にコストがかかる

法人化には、会社設立そのものに費用が発生します。
株式会社を設立する場合、定款の認証手数料や登録免許税といった法定費用だけで最低でも約20万円が必要です。
合同会社であれば費用を抑えられますが、それでも数万円のコストがかかります。

さらに、設立後も事業を維持するための経費が増加します。
例えば、複雑な法人税の申告を税理士に依頼する場合の顧問料や、社会保険労務士への報酬などが挙げられます。

これらのコストは個人事業の時には発生しなかった負担であり、事業計画に織り込んでおく必要があります。

赤字経営でも法人住民税の支払い義務がある

法人になると、たとえ事業が赤字であっても納税義務が生じる税金があります。それが法人住民税の「均等割」です。

法人住民税は、法人の所得に応じて課される「法人税割」と、所得に関わらず資本金や従業員数に応じて定額が課される「均等割」で構成されています。

この均等割は、企業が地方自治体の行政サービスを受けていることに対する会費のようなものであり、法律によって支払いが義務付けられています。そのため、駐車場経営の収益が上がらず赤字になった年度でも、最低年間7万円程度の税金を納めなければなりません。

経理や社会保険などの事務手続きが複雑になる

法人化に伴い、経理や労務に関する事務手続きの負担が増大します。
個人事業主の確定申告に比べ、法人の決算申告は非常に複雑であり、専門的な知識が不可欠です。
そのため、多くの場合は税理士に依頼することになり、その分のコストが発生します。

また、法律上、法人は社長一人であっても社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が義務付けられています。これに伴い、社会保険の加入手続きや毎月の保険料計算、納付といった煩雑な事務作業が発生し、個人事業の時にはなかった新たな負担となります。

駐車場経営の法人化を検討すべきタイミングは?所得の目安を紹介

駐車場経営を個人事業から法人化する際には、そのタイミングを見極めることが重要です。

メリットがデメリットを上回る適切な時期に会社設立を行うことで、節税効果を最大化し、スムーズな事業運営が可能になります。

一般的に、法人化を検討すべき具体的な目安として、所得金額と売上高の2つの指標が挙げられます。これらの基準を参考に、自身の事業状況と照らし合わせながら最適なタイミングを判断しましょう。

所得金額が800万円を超えたとき

法人化を検討する最も一般的な目安は、不動産所得が800万円を超えたときです。

個人の所得税は、所得が増えるほど税率が高くなる累進課税が適用されますが、法人税は所得額にかかわらず税率がほぼ一定です。

そのため、課税される不動産所得が一定のラインを超えると、個人として所得税を納めるよりも、法人として法人税を納める方が税負担は軽くなります。

この税率が逆転する分岐点が、一般的に所得800万円から900万円あたりとされています。
経費を差し引いた後の所得がこの水準に達した場合は、会社設立による節税効果が期待できるため、具体的なシミュレーションを始めると良いでしょう。

年間売上が1,000万円を超え消費税の課税事業者になるとき

年間の課税売上高が1,000万円を超えるタイミングも、法人化を検討する重要な時期です。

個人事業主は、2年前の課税売上高が1,000万円を超えると消費税の課税事業者となり、消費税の納税義務が発生します。

しかし、個人事業主が法人成りという形で新たに会社を設立した場合、資本金1,000万円未満などの要件を満たせば、設立から最大2年間は消費税の免税事業者となることができます。

これにより、本来納めるべき消費税が免除されるため、大きな節税効果が生まれます。
売上が1,000万円に近づいてきたら、このメリットを享受するために法人化の準備を進めるのが賢明です。

個人事業から法人へ!会社設立の具体的な5ステップ

駐車場経営を個人事業から法人化すると決めたら、具体的な会社設立の手続きを進める必要があります。

法人成りには、会社形態の決定から定款の作成、登記申請まで、いくつかの段階を踏む必要があります。これらの手続きをスムーズに進めるためには、全体の流れを事前に把握しておくことが重要です。

ここでは、個人事業主が会社を設立するための方法を、具体的な5つのステップに分けて解説します。

ステップ1:株式会社か合同会社か、会社形態を決める

最初に、設立する会社の形態を決定します。主な選択肢として「株式会社」と「合同会社」があります。

株式会社は、株式を発行して資金を集める形態で、社会的信用度が高いというメリットがあります。
一方、合同会社は、設立費用が株式会社よりも安く、経営の意思決定が迅速に行えるなどの利点があります。

駐車場経営の場合、外部からの大規模な資金調達の必要性が低ければ、設立コストや運営の自由度が高い合同会社も有力な選択肢です。

事業の将来性や外部からの見え方などを総合的に考慮し、自身の目的に合った企業形態を選びます。

ステップ2:事業目的などを定めた定款を作成・認証する

会社の形態が決まったら、会社の基本規則を定めた「定款」を作成します。

定款には、会社名(商号)、事業目的、本店所在地、資本金の額、役員の構成などを記載します。
特に事業目的の項目では、現在行っている駐車場経営だけでなく、将来的に展開する可能性のある不動産管理やコンサルティングといった関連事業も記載しておくと、後から定款を変更する手間が省けます。

作成した定款は、株式会社の場合は公証役場で認証を受ける必要があります。この定款は、その後の法人登記申請で必要となる重要な書類です。

ステップ3:資本金を銀行口座に払い込む

定款の作成・認証が終わったら、定款で定めた資本金を準備し、発起人(設立者)個人の銀行口座に払い込みます。

現在の法律では資本金1円から会社設立が可能ですが、資本金は事業を運営していくための元手となる資金であり、企業の信用度を示す指標の一つでもあります。そのため、少なくとも数ヶ月分の運転資金に相当する額を目安に設定するのが一般的です。

振込が完了したら、その口座の通帳のコピー(表紙、1ページ目、振込が記帳されたページ)をとり、資本金の払込みがあったことを証明する書類を作成します。この書類は、後の登記手続きで必要となります。

ステップ4:法務局で設立登記を申請する

資本金の払い込みまで完了したら、いよいよ法務局で会社の設立登記を申請します。

登記申請書、認証済みの定款、資本金の払込証明書など、法律で定められた必要書類一式を揃え、会社の本店所在地を管轄する法務局に提出します。この登記申請日が、会社の設立日となります。
手続きは司法書士に代行を依頼することもできますが、自身で行うことで費用を抑えることも可能です。

申請後、書類に不備がなければ1週間から10日ほどで登記が完了し、法人として正式に認められます。

ステップ5:税務署などに開業届や個人事業の廃業届を提出する

法務局での登記手続きが完了したら、会社として事業を開始するための各種届出を行います。

まず、税務署へ「法人設立届出書」を提出します。節税メリットのある青色申告を選択する場合は、同時に「青色申告の承認申請書」も提出が必要です。さらに、都道府県税事務所や市区町村役場にも、事業開始の届出を行います。

そして、個人事業から法人へ移行した場合は、これまで営んできた個人事業を廃止したことを知らせる「個人事業の開業・廃業等届出書」を所轄の税務署へ提出する手続きを忘れないようにしましょう。

駐車場経営の法人化で後悔しないためのポイント

駐車場経営の法人化は、計画的に進めなければ思わぬ落とし穴にはまる可能性があります。

特に、税金や社会保険に関する知識が不足していると、せっかくのメリットを享受できないばかりか、かえって負担が増えてしまうことも考えられます。

法人化を成功させ、後悔しないためには、事前にいくつかの重要なポイントを押さえておくことが必要です。

ここでは、特に注意すべき2つの点について解説します。

役員報酬を適切な金額に設定する

法人化した場合、経営者は会社から役員報酬を受け取りますが、この金額設定は非常に重要です。

役員報酬は法人の経費となるため、金額を高く設定すれば法人の利益が圧縮され、法人税の節税に繋がります。
しかし、その分個人の所得が増えるため、所得税や住民税の負担が大きくなります。
逆に報酬を低くしすぎると、法人に利益が残りすぎて法人税が高くなります。

不動産所得の見込みを立て、法人税と所得税の合計額が最も少なくなるようなバランスを見極めて報酬額を決定することが、全体の税負担を最適化する鍵です。
また、役員報酬は原則として事業年度の途中では変更できないため、期首に慎重な検討が求められます。

社会保険への加入が必須になることを理解しておく

個人事業主から法人になると、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が法律で義務付けられます。

これは、従業員がおらず社長一人の企業であっても例外ではありません。社会保険料は、会社と役員個人が半分ずつ負担する労使折半となります。
多くの場合、個人事業主時代に加入していた国民健康保険や国民年金に比べて、保険料の負担額は増加します。

この社会保険料は毎月固定で発生するコストであり、企業の資金繰りに直接影響を与えます。
法人化を検討する際には、この社会保険料の負担増をあらかじめ計算し、事業計画に組み込んでおくことが必要です。

まとめ

駐車場経営の法人化は、所得が一定額を超えた場合に大きな節税効果をもたらし、相続対策としても有効な手段です。
一方で、会社設立や維持にはコストがかかり、社会保険への加入義務や経理事務の複雑化といったデメリットも存在します。

そのため、法人化の判断は、自身の事業規模や収益状況、将来の展望を総合的に考慮して慎重に行う必要があります。
メリットとデメリットを正しく理解し、税理士などの専門家にも相談しながら、最適なタイミングで会社設立を進めることが、事業の持続的な発展に繋がります。

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